いつもの仕事終わりは深夜だけど、今日は特別な日なので9時にあがらせてもらった。前日2時帰宅だったし、こんなに早く終わる事なんて稀、しかも久々のメチロンなので気分 は高潮している。メチロン投入しなくてもいいんじゃないかくらいの興奮と嬉しさで足ど りが軽い。人ごみを抜け、急いで待ち合わせ場所へ向かった。 彼と合流、北海道直送のラム肉屋へ直行。 ドラッグをするのには空腹のほうが良いに決まってるのだけど、前から約束していた店へ直行。食事をしてしまう。ラムをつつきつつ、先走った私は、ここで飲もうよと彼に言ったけれど、彼は今入れたら、前回の二の舞になるだろと顔をしかめる。確かに、以前焼肉屋の席で注文前にメチった時は、肉を焼き始めながら気持ち悪くなり臭いも油っこさにも堪えきれなくなり、ほぼ全皿残し30分もたたないうち に会計を済ませたことがあった。今日のラム肉は上質で臭みがなくとってもおいしかったから、メチらなくて大正解。店内で酔っ払ってハイテンションな女客を見て、あの人はメチった時の私よりハイテンションだしよく喋るね、と言うと、彼はそうかなと笑った。
今日は少し高めだけど気にせずに特別室に入ることにした。素面のままチェックイン。 彼にオブラートで包んでもらい、グレープフルーツジュースで経口摂取。お風呂に入り まったりする。
30分くらい経ち次第にゆるゆると効いてくる。ふわふわとした感覚。軽いめまいがするような、浮遊感。いつの間にか確実に効いている。けれどそれほど認識はない。化粧ポーチを落として笑いながら写メを撮るし、マッサージチェアに寝そべる彼にまたが りソフトクリームを顔の目の前で舐めてみせたり、映画を見ている彼の視界を遮りテレビ 画面を隠して私を見て!と叫んだり、逆夜ばいプレイするよ、即尺禁止!とかわけのわから ない言葉をとにかく思いつくまま吐きつづけ、もう最悪下品に出来上がって本能丸出し。 落ち着きがなく、目が冴え、何をしたらいいかわからないけど、早く何かしたい気分。遊 園地に来た子どものような感じでそわそわする。外に出て散歩がてらコンビニに行きた い。キメた状態で新鮮な感覚になれるから好き。思いたったらいてもたってもいられず出 かけようよと彼を誘うけど答はNO。
ふてくされて床に座り込んで化粧ポーチを一心に整頓しはじめたり一人遊び。 することが無くなり、立ち上がって伸びをした。血液が一気に体内を巡り肌へのざわざわ とした感覚、一気に視界が晴れる。最高潮に蘇る。そうそうこれこれ!もっともっとメチ! とぐぐっと伸びをして苦しくなるまで息を止めて、勢いよく吐いた。
あ、きもちいぃ。
目を開けた。
見上げると佇む彼がいる。
あのまま私ってば寝ちゃってたんだ。 バスローブをはだけて床に寝そべっている自分の姿が可笑しい。このままえっち突入かなぁなんて思ったりして。
視界は澄んでクリアだ。もう戻れないような空間に閉じ込められたような。夢の中で意識を持ったような感覚。 「また来ちゃった」と不思議な気持ちになりながら体全体で空気を感じ。吐く息は深い。 笑いながら「すっっごく効いてるよ」と言うと
彼が大声で私に怒鳴った。言葉を理解できず驚きわけがわからなく、怒られていることにどうしてと凍りつき体が強張る。彼が私の体を起こし、頭を触る。何故か彼の手が赤い。赤。真っ赤。床を見るとたくさんの、血?私の血じゃーん。冷水あびせられるって感覚。どうやら伸びをした時に貧血になり頭から倒れたようだ。同じ事をして病院行きになった ことがあるから、血の気が引いた。記憶も痛みもないし床に落ちている血が本当に自分の ものかさえ疑ってしまうくらい。
自分の状態よりも彼への申し訳なさでいっぱいになり、ごめんねと繰り返したり病院に行 くならせーりで貧血で倒れたって言わなきゃとか、冷静なつもりだったけど今思えば軽く パニック状態。 こんなはずじゃなかったのに、セックスして寝るつもりだったのにーー。頭から血を流す なんて結構とんでもない事態から逃げられなくて自分の煩わしさに苛立った。 彼はいつになく冷静で、丁寧に消毒してくれて、頭を動かすなよと寝かせてくれた。数分立つごとに頭から血が出てないか確認してくれる。 痛みはない?と聞かれたものの、メチの効果で痛みも緩和されてる状態なので幸いか不幸 か頭の痛みが感じられない。メチのエロに転んだ時の全身性感帯の感覚は、エロが加わら なければ全身麻酔のようだ。痛さがない。それが恐怖でもある。前回も同じような事をしでかした時は起きたら酷い船 酔い状態で、吐いたし、まるまる一日半悪夢をみた。だからこそ感覚が失われてるだけ で、効果がなくなったらものすごい激痛に襲われるんじゃないかと不安になる。次の瞬間 にまた自分の意識がなくなり、大惨事をまねくかと思うと、トイレに行くのも怖く、壁づ たいに一歩一歩意識して踏み締め歩いた。自分の体と意識が直結せず、足があり、それを きちんと動かすようにしている感じ。もはや健常者じゃない。
足や手の血の臭いが気になるため、気分転換も兼、お風呂に入る事にした。雑誌を持って 入ったけど、モデルの笑顔も活字もぐにゃぐにゃと歪み、ピントが合ったり合わない状態 でなにがなんだか分からない。視界に酔ってきて気持ち悪くなり、のぼせて二の舞も恐 かったから、先にあがることにした。これはマジで死ぬかもなーなんて思ったから、彼に 軽くキスをして出た。 とにかく自分が自分自身の体をコントロールできてるかが不安で、今体を拭いてるよとか 無事ベッドに辿りついたよ、と自分自身確認するようにバスルームの彼に大声で伝える。
彼が戻ってこないのが不安で寂しい。早く早く。でもワガママは言っちゃいけない。自分 の頬や胸を触ると幾分か気分が紛れた。
体は追加分が効いてきたのか、触れるシーツさえ心地が良い。頭はもうへーきだからエッチしよ?血はでたけどもうへーき。だからさっきの続きをしよう、言いたくてたまらなかった。気持ちよくなって疲れて寝てしまいたかった。でも心配そうに覗き込む彼の顔を見てたらそんな事も言えなく なり、テレビ画面を無心で眺めるしかなかった。
映画は映像を追うだけで内容はよくわからなかったけど、トマトソースの缶詰が床に勢い よくこぼれた映像が、自分の血と重なり、とんでもなく嫌な気分になった。 いつの間かテレビではもう朝のニュース。殺人事件。しかもバラバラ。
いつもは流せるニュースも、気がかりになり、悲観的になり、被害者に感情移入し始める。次第に思考が妄想のループ。このまま死んだらこの人にものすごく悲しませる。悲しませるなんて、違うか。ただ困らせるだけかな。なんて悲しくなったりして。次々と思考が言葉が溢れそのたびに喜怒哀楽がつきまとい、落ち着きがない。
(以下、思考系ループでとんでもなくウザく更にハズかしい感じですが、混乱っぷり出てるのでそのまま載せちゃいます)
友達のY子の彼は暴力魔で、A美の同居人は逃げて、Kの男は紐まがいのニートだ。 私の彼は社会的地位もあるし私が傷つく事は言わないし2度も同じ事したのに優しくしてくれてる。なのに、何もつくせず与えられるばかりで、なんてめんどくせー女だ。糞女。 私は私は私は。私がぽっくりいったらバッグの中の現金はきちんと抜いておくんだよ、なんて事を言いそうになったけど、でも言ったら本当に実行されそうだから、言えない。 このまま眠ったら朝には目を開くのかな?ま、こんな自分は世の中にいらないし、余計な消費と芥を巻きちらすし、知らないうちに人を不愉快にさせているだろうし、こんな糞風俗女が死んだところで客も辞めたとしか思わないし店員も労働の駒を無くしただけで事件への関与を恐れるだけで誰も本当に困らないから、いっかなぁ。大好きな彼が看病して私に気持ちを一心に向けてくれてる中、手を握って眠るように死んだら、最上の幸福だ。この先辛い思いをして死ぬくらいなら、やりきれない事で苦しむなら、最高に幸せな今この 時を選んで時間を止めたら、もしかしてとんでもなく幸せなんじゃないか。身勝手だけど、彼が私に優しいうちに私の事を好きで隣でいてくれるうちが人生で1番の山。
あーーーーそれにしても痛くない。少っしも痛くなーーーい。よ。変だよ変。 頭打って血出して痛くないってのは。でも大丈夫、生きているし空気も吸えている。でも。戻れるのかな?でも元に戻ったところで何が待ってる?必死になって欲しいものもないし。このまま死んだ弟のように、病床で一心の愛を受けて植物状態になったらさぞかし幸せだろうな。大体、痛いとか感覚はどこで感じてるんだ?自分は細胞の集合体で、意識はどこに在る?
人間は脳みそってゆー自己世界で生きてるのであって、人間が人間同士わかりあったり、 世界を共有できるのはとんでもない勘違いじゃないか。足りない頭でこんなことと考えてると、 自分の住んでる世界も隣にいる彼も自分自身の肉体も精神も思考も全てが曖昧で実態の見えないものに感じ、足元がぐらついた。
風俗して薬してぶっ倒れてこんなになってる自分が情けなくてあほくさすぎて泣きそうになった。
右手は自分の胸に当て、左手で彼の指を握る。 心臓の音を意識した瞬間に、体全体に走る血液の流れや妙に大きく感じ、目をつぶり息を大きく吸うと、心地よかった。きっと人は死ぬ時、最後には自分の鼓動の音を聞いて死ぬんだ。血液の流れを意識して果てるんだ。眠れない中そんなことばかり思いを巡らせてた。
朝。 無事だった。生きていた。傷が痛いだけで頭痛もなく、吐き気もしない。いつものように隣に彼がいて、彼の頭は寝癖でボサボサで、いつものようにチェックアウトの時間は過ぎていた。
いつもの朝。 悪夢を見たけど、すっかり忘れた。まったく幸せなことだ。 昨夜はあんなに恐れていたけど、頭を打ったとはいえただの切り傷だから死ぬわけがな かったんだ。昨夜の生きるか死ぬかの追い詰められた気分をもう忘れ、けろりとした自分 が可笑しかった。
血でバリバリになった髪の毛を洗い、身支度を済ませ、外に出ると太陽の光が異様に眩し かった。突き刺す。痛い。頭が痛い。痛みが認識できて生きていることがラッキーだよ と彼に言うとこれ以上心配かけないで、と一言だけ言われた。
彼は仕事にでかけ、私は夕方の仕事まで時間があるから新宿を一人徘徊してた。
服を見ているのものの面倒になって、歩くのも面倒になって、雑踏から逃げるようにカフェに入った。 けだるさは抜けなくて頼んだカフェラテを少し飲み、あとは水を飲んでいた。隣に座った女の香水が鼻について、気持ち悪くなり、口の中の甘ったるいカフェオレも不快に思えてくる。なんだか仕事も自分も面倒だ。つきまとう全てが嫌になってくる。逃げるように、店を後にした。
非日常の鮮明な空間を置いて、いつもの日常が始まる。
気がつけば頭の傷の痛みを感じられている。 しかし後悔した先から、薬がまだ抜けていない気だるいまま、 私はすでに次に彼とキメられる日の事を考えていた。 体に蘇ってきた薬の心地よさを目を閉じて味わった。
眩しい。
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